先週は、カナダ人のセラピスト、リズ・ブルボーさんがインナーチャイルドの傷を
分類したものの一つ「拒絶の傷―逃避の仮面」をご紹介しました。
今日は分類の二つ目「見捨ての傷―依存の仮面」をご紹介しましょう。
「見捨ての傷」は1歳から3歳の間に「異性の親」との関わりで傷が目覚める、
と言われます。
実際にその年齢で両親が離婚などして異性の親が出て行ってしまったような場合は
分かり易い「見捨て」ですが、そうではなく離婚もせず、両親の仲も特に悪いもの
でもない場合も、異性の親からの愛情が実際に不足していたり、場合によっては
「自分の期待した形の愛情が得られなかった」と感じたりします。
そして目覚めた傷を感じないようにするために「依存の仮面」を身に着けます。
ひとりでいることが難しく、「孤独」を非常に怖れます。
常に周囲に誰かがいて自分を支えてくれる必要を感じています。
周囲の人の関心を引くため、無意識にトラブルを起こしたり病気を作りだしたり、
いづれにせよ自分を「犠牲者」の位置に置きがちです。
他者の意見や忠告を求めたがるのですが、それを実際に役立てることはほぼなく、
関心がほしいために無意識にそうすることが多いのです。
【Y子さん 40歳 薬剤師のケース】
(エッセンスはそのままですが詳細は変えています)
Y子さんは大きな企業の課長職のご主人(50歳)との間に15歳の男の子と
10歳の女の子を持つ家庭の主婦でもあります。
ご主人は外では腰が低く、穏やかな人という評判で、子供たちは学業優秀。
ご本人も立派な職業を持っている・・・と外から見ると理想に近いような家庭でした。
ところが、Y子さんは始終ケガをしていて、整形外科に良く通っていました。
階段で転んでしまったとか、腕をどこかにぶつけて打ち身がひどいとかなど
です。
あまりに頻繁にケガをして受診するのをいぶかしく思った外科の医師が、
本当に転んだり、自分で打ち身を作ったのかと問い正すと、
「実は主人に突き飛ばされて・・・」とご主人から暴力を振るわれていると
打ち明けたのです。
医師は驚いてこのままでは危険だから、場合によっては警察に行くか、
家を出るとか、とにかく第三者に相談することを強く勧めました。
Y子さんも医師のことばがきっかけになり、気持ちも落ち込んでいたので、
自分の仕事場とはかなり離れた心療内科を受診することにしたのです。
心療内科ではY子さんが抑うつ状態であると診断し、しばらく休業することを
勧めましたが、Y子さんは「主人に知られたくない」と断ったので、ひとまず
カウンセリングを受けるよう勧められたのです。
Y子さんは少しずつご主人とのことを話してくれるようになりましたが、
外で穏やかな腰の低いその人がY子さんに対しては「暴君」のように
振舞い、暴力は身体ばかりでなく、Y子さんのことを「お前がこんなだから
おれは課長どまりだ」とか「子供の成績が伸びないのはお前の教育が
悪いから」など、すべての悪いことをY子さんのせいにして悪しざまに
ののしるそうでした。
なぜそんなご主人に好きなように振るまわせているのか聞いてみると、
「自分がいたらないからです」などと現実とは違いそうなことを繰り返すばかり
でした。
お子さんたちはどう思っているか知っているかと聞くと「早く別れたほうがいい」
と二人とも言っているということです。
しばらくそのような感じでしたが、ある日目の端が切れていて目の周りが
黒くなった状態で来られました。
びっくりして聞いてみるとやはりご主人の暴力でした。
資格を活かしたお仕事もあり、経済的に自立も可能、お子さんたちも別れてほしい、
と言っている、なのになぜその方向に気持ちが動かないのかを聞いてみると・・・
答えるのにかなりちゅうちょされたあと、ポツリと「一人では生きていけないんです」
と小さな声で答えられました。
Y子さんはそのあとから少しずつご自分の気持ちを話してくれるようになりましたが、
3歳のとき両親が離婚し、母親に引き取られてからは、当時大好きだった
父親と会うことができなくなったそうです。
いろいろな事情があったのでしょうが、Y子さんは「お父さんが私を捨てた」
と幼いながら強く感じたそうです。
母子家庭になったので経済的にも苦しいことが多かったため、Y子さんは将来は
資格を取って何があっても自活できるようになろうと思い、その思いで薬剤師に
なったということです。
Y子さんには「見捨ての傷」が深く疼いていて、それを感じないようにするために
「依存の仮面」をつけるようになったと思われました。
ご主人は身体的な暴力、モラハラ的言動の日々なのになぜ別れないのか
と思いましたが、このような男性によくあるパターンがありました。
それは、暴力やモラハラ的言動のあとに急に優しい態度になり、
「悪かった、反省している」などということばがセットでくっついてくるのです。
Y子さんはわかっているのに「主人から見捨てられるのが怖いんです」と、
このような態度に繰り返し振り回されてきたのです。
病気になったりする代わりにご主人の暴力に耐えている自分を見せて
関心を得る、というような病的なやり取りのパターンになっていました。
カウンセリングが半年続くうちに、Y子さんはご自分の「見捨ての傷」について、
そこから派生する「依存の仮面」ということも頭だけでなく、心で理解できるように
なってきました。
そして一番Y子さんにとって良い意味のショックになったのは、高校生になった
息子さんがある日Y子さんに「お母さんがお父さんにいつまでもくっついているなら、
僕がお母さんを見限ってしまうよ」と言ったのです。
Y子さんは「息子にああ言われたとき、初めて自分の病的な、夫への依存
状態がはっきりわかったんです。このまま夫にくっついていたら今度は息子に
見捨てられるんだなって」と言われました。
またこうも言われました「幼いときは何も知らずに父に見捨てられたのは確かですが、
今度は大人になった自分がすべきことをしないために愛する人に見捨てられるなんて
絶対にしたくないです!」とも。
準備状態になっていたところにこのことが転機となり、ご主人とはいろいろもめましたが、
離婚調停を経て離婚され、お子さんたちはY子さんと暮らすことになりました。
Y子さんの「見捨ての傷」が完全に癒されるにはまだ時間が必要と思いますが、
「依存の仮面」のパターンから解放されてきているのをはっきり感じています。
それではまたね~(^_^)/~